第1回~放牧のススメ~

放牧をしてみませんか?

放牧は古い昔からある技術です。
近年、この技術が見直されてきています。
それは、放牧が牛本来の飼い方であり、酪農のコストを下げる最良の技術だといえるからです。
さて、北海道草地協会資料の中に放牧に関するアンケートの結果があります。
放牧をしてよかったことは?という問いに対し以下のような回答がありました。

1、 労力が軽減された。
(これは農業試験場の成績にもあります。)
2、 発情の発見が容易になった。
3、 糞尿処理が楽になった。
4、 牛が健康になった。
5、 飼料にかかる費用が削減された。
6、 乳量が増加した。
7、 牛の更新が長くなった。

などという答えが多く挙げられています。

これらの答えから得られる結論は、総じてコストが下がったということであり、私も放牧を実際に行ったいる人や新たに始めた人に係わることで、それを実感しています。


それでは、放牧をしない理由とはいったいどのようなものなのでしょうか。

1、 放牧する土地がない。畜舎周辺に土地がない。
2、 牛の移動、繋ぎなどに手間がかかる。
3、 放牧は技術的に難しい。
4、 舎飼い方式で問題はない。
5、 舎飼い用の施設、機械が無駄になる。
6、 放牧導入時に費用がかかる
7、 乳成分が下がる。
8、 乳量が低下する。
9、 牛が放牧に慣れていない。

以上が多くの回答にあげられていた理由です。

しかし、これらの問題に解決の方法はないのでしょうか。私なりに放牧を実際にしている人からの話を参考に考えてみました。


「放牧をする土地がない」について

現状を見る限り、少ない面積であったり放牧による草量が少ない場合でもその効果は上がるようです。
私の知っている農家さんは、100頭ほどのフリーストールバーンで10haほどの草地で放牧をしています。
この人は草地を10牧区に分けていますが、中には数牧区ほどに装置を区切り、フリーストールバーンに自由に出入りできるようにしている人もいます。
放牧から得られる草量は少ないですが、その他の目的は達しているようです。

「牛の移動、つなぎなどに時間がかかる」について

これは思ったほど難しいものではなく、放牧をしている人からすれば、飼料供与、サイレージ調整、糞尿処理などの時間が短縮されることにより、解決される問題のようです。

「放牧は技術的に難しい」について

このことは奥の深いもので、解決は簡単ではないかもしれません。
まずは放牧で成功している人の話をよく聞いてください。色々とヒントがもらえると思います。
そして思い切って始めてみてください。思ったよりもスムーズに行くものです。
小さな面積から始めるのも一つの方法かもしれません。放牧を始めてからも、自ら工夫するところが多く出てくるかと思います。
そうした点を自ら創意工夫していくことも、放牧の在り方だと私は考えます。

「施設などが無駄になる」については割り切りだと思います

無駄なものはないと思いますし、大型の機械なども耐用年数とともに処分するか、不要なものは他の農家に譲るなどの方法があるかと思います。

「放牧導入時に費用がかかる」について

実際、放牧に際して多くの費用は要しません。
どうしても費用がという場合は、先の技術的な問題の時と同様小さな面積から始めるというのも方法の一つです。
必要面積から始めるとしても、初の飼料給与システムの導入と考えるならば、トラクターなどの大型農機から比べて安いものと思います。

放牧に際し、私は外柵や牧区の区切りに電気柵を勧めます。
一昔前に比べ、電牧器は強力になりましたし、危険防止という意味合いでもお勧めできるからです。
外柵部分をしっかりとフェンシングワイヤー(高張力線)で張ると脱柵されることもほとんどなく、管理に関する手間も少ないため、長い目で見るとコストも安く済みます。

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「乳成分の低下」は確かにその通りです

しかし、カロリーや繊維の補給を十分にすれば、それほど大きくは低下しません。
それよりも前記したメリットのほうが大きくなりますので、コスト的には解決するかと思います。

「乳量の低下」について

これは一概に下がると決め付けることはできないと思います。
放牧をしていく中で不足するものを別で補えば、それほど下がらないはずです。
仮に昼夜放牧を行い、サイレージなどをまったく給与しないとすれば1万kg/頭は難しいでしょう。
もちろん省力とコストを考えれば1万kg/頭がベストとは思いますが、8,000~9,000kg/頭がコストからベストだと言っている人も多くいます。
乳量ベースをどこに置くか、それは人それぞれだと私は思います。

「牛が放牧に慣れていない」という問題は時間が解決してくれます

今までにまったく放牧の経験がない牛は若干時間がかかるのですが、ここは牛との我慢比べです。
はじめは草地に出してもまったく草を食べようとしない牛群だったとしても、やがて少しずつ食べるようになり放牧という環境に適応していきます。
新規入植者の方は初産の牛ばかりですが、これらの牛が草を食べないということはないようです。
牛が放牧慣れしていく過程の中で一つ注意することがあります。それは牛が群れを作ると優劣や序列を決めるというもので、その時に暴走してしまうことがあるということです。
そのため内柵はポリワイヤーなどの簡易柵でも、外柵にフェンシングワイヤーなどのしっかりとした柵を用いることが必要になってきます。

こうした問題を一つ一つ解決していけば放牧は素晴らしい技術だと思います。
下の写真のように、牛が草地で草を食む風景はのどかで健康的、そしてその牛から得られる牛乳はまさに美味そのものです。
これこそが、消費者が酪農に抱くイメージそのものであり、酪農本来の姿ではないかと私は思うのです。

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五十嵐 勇